西方見聞録 2 シャット・アル・アラブ

なんちゃって紀行


ここはイラク南部のバスラ市。暑い、夏の最高気温は普通に摂氏50度くらいになる。




暑さを避けるため特に急ぐ用がないかぎり人々は日中の午後、屋内で過ごしている。朝 8時に開く店舗は正午に閉店となる。暑い時間帯に営業するところはほとんど無い。それはそうだろう、暑いので客が来ないからだ。

日が沈む夕方からがこの街の午後の営業時間だ。買い物などの用を足しに人々が動き出す。日暮れも 7時頃になるとねっとりした暑さが残る空気にのって近くの食堂から鶏や羊の炙り肉の香ばしい匂いが漂ってくる。


シャット・アル・アラブはバスラを流れる大河。この川抜きにバスラの街を語ることはできないお話である。

酷暑の夏の夕暮れ、川沿いの歩道を歩けば吹く風が心地よい。水上レストランの彩鮮やかなネオンが水面に光の装飾を施している。川岸はそのような人々が夕涼みに集う憩いの場で地元ではコルニッシュ(Corniche)と呼ばれている。緩やかな流れの向こう岸はナツメヤシの森が広がっている。バスラの人々自慢の眺めだ。その向こうはタヌーマ地区。職場のバスラ大学があるところだ。

シャット・アル・アラブは有名な二つの大河が合流したものだ。チグリス川、そして人類文明発祥のゆりかごのユーフラテス川である。合流地はクルナという町だ。大河の流れはバスラを通り、南のサフワンを経由してアラビア湾へ注ぐ。たいそうゆったりした流れで川幅は広い。一番広いところでは対岸も遥か向こうに見える。

下流を見渡せば座礁した貨物船が見える(1980年代当時)。この川は運河として活用されている。

川であるから橋がありそうなものだが川床に固定されている橋は無い。あるのは浮き橋である。トラックでも走行可能な代物だ。船が通るときは切り離し、通ればまたつなぐ。

橋の無い時はフェリーが登場する。といっても川下りの筏を大きくしたものにエンジンを付けたようなものである。これに人、乗用車、家畜等を載せ川を渡るのに同乗したことがある。操船は巧みなものであった。

 

コルニッシュ


コルニッシュという言葉について少し調べてみた。

フランス語で '道路' の意味。特に片側が山でもう片方が断崖になっているような道を指すそうだ。今では海や川沿いの道路を指す場合も多く世界各地でこの呼び名が使われている。チュニジアやアブダビ、インドのムンバイにもこの名を称する地がある。
暑いところが多いようだ。乾きを癒してくれる水への憧れなのかもしれない。


当地では身の回りの品が壊れると「シャット・アル・アラブに捨ててしまえ」と言う。何も本当に投げ込むわけではない。よく聞いてみると壊れた品の不甲斐なさを嘆く言葉と理解した。きっと永く使われてきた言い回しなんだろう。


この地で投宿したのはシャット・アル・アラブ沿いのバスラ・シェラトン。1980年代バスラにはプラント建設などで多くの日本人が滞在していた。このホテルも日成建設が建てた街一番のホテルでコンクリートの厚さは90cm。ちょっとした大砲の弾なぞ貫通しない造りなのだと設計に携わった人が自信に満ちた笑顔で言っていた。遠い地で同胞が良い仕事をしているのをこの目で見るのは嬉しいものである。

吹き抜けの構造の広いロビーには生ピアノの音色が流れていて優雅である。レセプションではインドから来たきわめて美しいアリスがロビーを通るたび笑顔を見せてくれていた。一番小さな部屋でも広い。浴室は4畳半近くある。厚いラワンでできたバルコニーの戸を開ければ大河がゆったりと流れている。下の写真で壁に張り付いている木の構造がバルコニー 。


長い時は6か月の宿泊。ホテル従業員と名前で呼び合うようになればいろいろ融通が利く。
レストランでは私専用のキッコーマン醤油が出てくる。朝のコーヒーショップでは朝食の終わり頃パン、ジャムとバターとチーズ、ゆで卵を入れた包みが席に届く。エジプトからの出稼ぎウェイター特製のランチボックス。彼らとは色々と付き合いがあったので役得だ。


このホテル、地面から湧いて出る油で金を稼いでいる国が威信をかけて建てたもので宿泊料は安くない。カジノも設けられている。地元では結婚式のレセプションにも利用されているが稼ぎのいい家でなければ難しいだろう。ありがたいのはバーが併設されたプールである。仕事が早く終わる夏の午後、炎天下であちこち歩いて回るわけにもいかず時間が余ってしまう。プールでの日光浴は絶好の暇つぶしだ。50度の気温と直射日光を我慢すること一時間、流し込む冷たいビールとクラブサンドが主な日課となっていた。


こういう宿に長く投宿するのは出稼ぎ日本人の若造には贅沢なことだ。でも体験するのが人生、こういうことがあってもいい。

 
 

バスラ・シェラトンン

結婚を祝う人たち


 

ホテルのパティオ

from Travel Guide - 1982
  STATE ORGANIZATION OF TOURISM, IRAQ

   
   
   
   
Shatt al-Arab

   
   
   
   

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